甘い恋の始め方
(良かった。気づいてないみたい)

去っていく篠原の後姿を見ながら、小さく肩を撫で下ろす。

「理子さんは俺の仕事が気にならないですか?」

安堵したところへ触れたくない話題が。

「えっ? どうしてですか?」

「俺がなにをしているのか聞かないので」

(あ……知っているだけにそこのところ、全く触れていなかったわ)

「婚活パーティーの主催会社は身元がしっかりした参加者なので気にしていなかったんですけど……」

「なるほど」

苦し紛れに言った言葉だけど、悠也が納得した様子だ。

そこへもう一枚頼んだピザが到着して、理子は取り分ける方に集中しているフリをした。

(話題を変えなきゃ……)

「明日は何時の飛行機なんですか?」

悠也の皿にピザを取り分けながら聞く。

「昼の便で戻ります。それまで一緒に過ごしてくれますか?」

「それは……」

少し甘く響く低音の声に誘われすぐに「はい」と言いたくなるが、ここは軽い女に思われないために戸惑いを見せる。

< 104 / 257 >

この作品をシェア

pagetop