甘い恋の始め方
まだ完ぺきに酔いが覚めていない身体にムチ打ち、理子はそっとベッドから出る。

立ち上がるとまだ足がふらついた。

ドアに手をかけ静かに開けると、悠也の話し声が聞こえてきた。

(ひとりじゃない?)

一人暮らしではなかったのだろうか?

ペンダントライトの柔らかい灯りが部屋の一部だけ照らしている。

目を凝らしてリビングの中を見た理子は、窓際でこちらに背を向けた悠也を見つけた。

(電話中だったんだわ)

しかし、こんな夜中に話す相手が気になる。

「今度戻ってくるのは来週末になると思う」

そんな会話が理子の耳に入ってきた。

電話で話す悠也の声が、恋人に語りかけるように聞こえて胸がざわめく。

「必ず行くから。大切な――さんのためだからね」

(来週、必ず行く……? 大切な……? 誰に語りかけているの?)

悠也に大切な人がいた……私はなんだったのだろうか……理子の頭に疑問が投げかけられる。

電話を切った悠也が不意に理子の方を向いた。


< 107 / 257 >

この作品をシェア

pagetop