甘い恋の始め方
「理子さん!」

「あ……」

盗み聞きして見つかったときのように、バツの悪い思いだ。

「ちょうど良かった。バスタブに湯が張られたところです」

今まで恋人と電話をしていたように思えないほど普通の悠也だ。いや、普通がよくわからない。それほどまだよく知っているわけではないから。

この男は平然と浮気をするタイプなのだろうか……理子はショックでその場から動けずにいた。

「どうかしましたか?」

電話の会話を聞かれたとは夢にも思っていないのか。

悠也が理子の元へやって来た。

「もしかして気分が悪いんですか? 吐きたい?」

「えっ? いいえ」

吐きたいと聞かれ、咄嗟に正直に答えてしまう。

これからなにが起こるのかわかっていながら、間抜けな答えだ。

気分が悪いといえば、ふたりに距離が出来たのに。

「良かった」

髪の毛を長い指先で撫で、あごに手が置かれて上を向かされる。

「ゆ――んっ……」

唇が重ねられた。

上唇と下唇を交互に啄むようにキスをされる。

それだけのキスでも理子の身体に変化がもたらされる。

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