甘い恋の始め方
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翌日、いつもより遅く出勤すると課長がやって来た。

「昨日は悪かったな。これ土産ね」

四角いお菓子の箱をデスクの上に置く。包み紙のイラストは富士山。

(そっか、山梨って言ってたっけ)

「ありがとうございます」

(クッキーだろうか)

理子はにっこり笑みを浮かべてお礼を言った。

「あらー? 課長、私にはお土産ないんですか?」

前の席に座る加奈がわざとらしく顔に笑みを張りつかせ、からかうように課長に聞く。

「小石川君は昨日仕事してくれたんだよ。そう言うことだから君らにはないんだ」

「えー!? 課長! 理子のデート邪魔しちゃったんですか?」

「えっ? デート中だったのか?」

課長は驚いて加奈から理子へすまなそうな視線を送る。

「加奈っ」

たしかに課長に邪魔された。仕事がなければ空港まで見送れたのに。でも課長が知らなくてもいいこと。

「かちょーこれはお土産で済む問題じゃないですよー。ランチでもご馳走しなくちゃ」

「加奈っ、大丈夫だから」

どんどんエスカレートしていく加奈の言葉に理子は慌てて両手を顔の前で振る。

(ランチをご馳走してほしいわけじゃないし)

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