甘い恋の始め方
翔は見た目に気を使い、着道楽(きどうらく)というのがぴったりな男だった。

洋服や装飾品にお金をかけるから、デートはいつも理子の部屋だった。

見た目はカッコいい翔だけれど、エッチはそれほどうまくはなかったようだ。

加奈の言うとおり、体験談にあるようなすごく良かった。これ以上ないほど燃えた。なんて経験は翔を含め、今までになかった。

26歳から約1年間付き合い婚約した。

ウエディングドレスを選びに行く日、翔の浮気が発覚して別れた。

翔は理子に職場の美容室で声をかけたように、他の可愛い女の子にも声をかけ、浮気していたのだ。

別れの最後の言葉を思い出して、苦笑いになる。

浮気現場が発覚したのはよくあるパターン。

驚かせようとして訪れたアパートで、ベッドで最中のところを見てしまった。

『一人の女も満足させられないくせに! へたくそ! 婚約は解消よ!』

たしか、傷つけられた分、翔の自尊心を傷つけようとして出た言葉だった。

昔の嫌な思い出を思い出していた理子の耳に、ドアが開く音が聞こえてきた。

誰かが入ってきたようだ。

「遅れてすみません」

少し低めで、謝る声さえも甘く聞こえる声。

ドアの方を見ていなかった理子の耳に、女性たちのため息が聞こえてきた気がした。

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