甘い恋の始め方
「私、二股をかける気はないの」

『十分わかっています。でも、ここまで来たんだから入ってくれても良いんじゃないですか?』

「浩太君……」

スマホを耳にあてながら、ドアに浩太が近づいてくる。

『髪の毛、弄らせてください。昔から理子さんの髪を弄りたかったんです。それだけでいいです』

「……」

理子が返答に迷っているうちに、カチャっとヘアサロンの白木のドアが開いた。

「どうぞ。理子さん」

まだ窓の前に立っている理子に浩太は近づくと、ヘアサロンの中へ招く。

理子は「彼はただの友達」と心に言い聞かせて、ドアを押さえて待っている浩太に近づいた。

「ミューズ」の中は昔と変わっていなかった。

ここへ数えきれないくらい足を運んだ。

当時の記憶が次から次へと思い出されて、身体がこわばる。

「こっちです」

店の中ほどで突っ立っている理子に、浩太は手首を掴むと目的の場所へ案内する。

案内されたところはやはり個室だった。お得意様やカップル用に施術する部屋。

壁にぴったりつけられた四角いテーブルの上にワインとワイングラス。

デパ地下でかってきたのだろうかサーモンや生ハムなどのオードブルがあった。

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