甘い恋の始め方
「そんな言い方、まるで子供に言っているみたいですよ。俺、嫌だな」

「そ、そんなつもりじゃなくて……ごめん」

さっきまで冷たかった手が彼の暖かい手に包まれ、冷たさが彼の手に吸収されていくようだ。

手を握られるのは心地よいが……

「放して……」

浩太は口元をへの字にして、理子の手を離した。

「浩太君、スキンシップは一切なしでね?」

きつい一言なのだろう。

浩太は少し考えてから、これみよがしなため息をついた。

「……わかりました。嫌われるのは嫌だから。でも理子さんの髪を弄らせてもらうのはスキンシップじゃないですからね」

(そうだ、髪を弄りたいって……すっかり忘れていた)

「髪、弄らなくてもいいのよ?」

「いいえ、言いましたよね? 昔から理子さんの髪を弄りたかったって」

「私の髪なんて他のお客さんと一緒でしょう?」

理子はストレートの肩より少し長い髪に触れる。

「一緒じゃないですよ。理子さんの髪の手触りは素敵です。ずっと触れていたいくらいに」

「浩太君っ」

これ以上彼に甘い言葉を言われ続けていると、心が揺らいでしまいそうだ。

(久我副社長がこんな風に甘い言葉を言ってくれるといいのに……)


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