甘い恋の始め方
「スキンシップは無しって言ったでしょう?」

「可愛い寝顔を見ていたら我慢できなくな――」

個室のドアが大きく開き、驚いた浩太はさっと顔を動かす。

「か、翔さんっ!」

浩太の慌てた声がする。

(えっ? 翔?)

施術席はドアから離れており、鏡を見ても翔の姿が見えない。

もう二度と会いたくなかった男。

理子はケープを外す。

「浩太、なにやってんだ?」

部屋に入ってきた翔はテーブルの上を見てから施術席を見る。

俯く女性の姿が鏡に映っているのが見える。

「こんなところでデートか」

「まあそんなとことです。翔さんはどうして?」

「店の前を通ったら電気が点いていたから気になったんだ」

「ああ……そうですね。勝手に使ってすみませんでした」

浩太は口元を引き締め、翔に頭を下げる。

「紹介してくれよ。お前の彼女に」

からかうような翔の声に理子の心臓がドキッと跳ねる。

「彼女、恥ずかしがり屋なんで今日のところは……」

「いいじゃん、挨拶ぐらいしても良いだろ」

浩太の言葉を振り切り、翔が施術席に向かう足音がカツン、カツンと聞こえてくる。

理子は腹をくくり、施術席を立った。

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