甘い恋の始め方
(あずさの言うとおり、極上の男なの?)

イスが引かれる音がして、理子はそちらに視線を向けた。その瞬間、理子の目が大きくなる。

(あの人はっ! ううん。まさか。副社長が婚活パーティーに参加するわけない。他人の空似よ)

久我悠也副社長。5年前に実力を買われ、ヘッドハンティングされてわが社に来た。

(社内でも人気の久我副社長が? まさか……あ!)

まじまじと見つめてしまうと、胸のネームプレートに「悠也」の文字が目に入った。

理子の口から「ひっ!」と、小さな悲鳴が漏れる。

(間違いないわ! あの人はわが社の……)

理子は何度も目を疑った。

しかし入ってきたのは、わが社の独身男性の中でも一番の有望株。

女子社員に人気があり、理子もひっそりと彼に憧れるひとり。だけど、社内恋愛の噂はひとつもない。

どうやら同じ会社の女性とは付き合わないらしいと噂されていた。

「どうかしましたか?」

目の前の少し気弱そうな男性に、おそるおそる声をかけられる。

「あ、いいえ。なんでもありません」

理子は軽く首を振り、にっこりほほ笑む。

(私のことなんて覚えていないはず。今まで会ったのは廊下で数回と会議で1度きりなんだから)


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