甘い恋の始め方
会議が始まる10分前になると、理子はタブレットとファイルを手にして立ち上がった。

電話中だった加奈が受話器を置いて見上げる。

「おー出来る女史って感じだわ。それでメガネをかけていたら完璧」

「からかわないでよ。じゃ、行ってくるね」

「はーい」

加奈は軽く手を挙げて理子を送り出した。

8階の会議室に向かう理子の足取りは重い。

どんな仕事でも仕事は仕事。でも、2課の個人の顧客相手の方が理子は好きだ。

エレベーターを待っていると、ちょうど山本課長と1課の男性がやってきた。

「山本課長」

理子は丁寧にお辞儀をして挨拶する。

「ああ。小石川君、忙しいところ悪かったね。期待しているよ」

強面の怖いイメージがある山本課長は珍しく柔らかい口調で話した。

1課が出来ない仕事を頼むのだから、愛想よくしてもらわないとやってられないところだ。

「未熟者ですがよろしくおねがいします」

「いやいや、彼にいろいろ教えながらやってくれ。去年入った設楽(したら)君だ」

「はい。こちらこそよろしくおねがいします」

理子は山本課長の隣に立つ、気弱そうな男性に頭を下げた。

「よろしくおねがいします」

設楽も頭を下げたところで、エレベーターがやってきた。

< 143 / 257 >

この作品をシェア

pagetop