甘い恋の始め方
「ぁ……」

やっと出せた声はそれだけ。

その男性の顔を見た瞬間、座っているのに足が震え、伝染したかのように手まで震えてきた。

入ってきたのは悠也だった。

いつものようにスーツが良く似合いほれぼれする男っぷりだ。

この中の男性の誰よりもステキだ。

しかし今の理子はその姿に惚れ惚れするどころか、今すぐ逃げ出したい。

そんな思いとはうらはらに、理子は悠也から視線を外せずにいた。

「女性がいるとは珍しいですね。どこの社の方ですか?」

この会議室にいる女性は理子ひとりだ。

悠也は理子の緊張とは正反対に、長テーブルに肘をつくようにして両手を組む。

理子がこの会社にいるとは思っていないらしい。

「あ、あの――」

「久我副社長、彼女はデザイン2課の小石川です。以前、大型ショッピングモールの案件のときに顔合わせをしていますよ」

悠也の近くにいた山本課長が話す。

「ショッピングモール?」

悠也の片方の眉が、理子の顔を問い詰めるようにかすかに上がる。


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