甘い恋の始め方
理子は次のドアプレートを見ようとしたとき、その先に誰かがいることに気づく。

悠也だった。

「あ……」

(探しているところを見られていたなんて恥ずかしい)

「理子さん、こちらです」

薄暗い廊下で悠也の表情まではわからない。

悠也はドアを開けて理子が来るのを待っている。理子は悠也にこわごわと近づいた。

理子が先に副社長室へ入ると、悠也はドアを静かに閉めた。

「そこのソファに座ってください」

薄暗い廊下から明るい部屋に入り、理子は眩しさに目を瞬かせる。

すぐに視力が戻ると、理子は悠也の言うソファを見た。

7人ほどが座れる黒革のソファセット。理子は3人掛けのソファに腰を下ろす。

悠也が斜め横の1人掛けのソファに座わるのを待ってから、理子はこわばる口を開いた。

「悠也さん、嘘をついていてごめんなさい」

謝る声が震える。うつむき膝の上でぎゅっと握った手を見ていた。

「理子さんは俺を知っていたんですね?」

「はい。悠也さんがパーティー会場に入ってきたときから。最初はまさかと思ったんですが」

「なぜ同じ会社だということを隠していたんですか?」

「……会社での噂を知っていたから……副社長は社内恋愛は絶対にしないと」


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