甘い恋の始め方
外に出て玄関の鍵を閉めていると、足音が近づいてきた。

マンションの住人だろうと、気にせずに鍵をかけた理子は振り返った途端驚いた。

「翔っ!」

「よっ!」

翔は少し気まずいような顔で、片手を上げた。

「なんの用?」

(なんてタイミングが悪いんだろう。今、この男と話す心の余裕なんて爪の先ほどもないんだから)

「出かけるところだったのか?」

「そうよ」

そっけなく答える理子に、翔はじっと顔を見つめてきた。

「お前、目が腫れてる。泣いてたのか?」

「な、泣いていたわけないじゃない! うつ伏せで寝ていたからむくんじゃってるだけよ」

腫れた目を見られたくなくて、せっかくブローした髪を手で撫でつけ目を隠そうとした。

「要件を言ってよ」

翔が来た理由がわからない。

お風呂上がりの身体でここに長い時間居たら風邪を引いてしまいそうだ。

理子は寒さをしのぐように身体の前で腕を組む。

それが翔に対しての防御のような体制になってしまったようだ。

すぐさま翔の表情が不快感を表すようにムッとなる。



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