甘い恋の始め方
理子としてもこれで最後、こんな風に間近で久我副社長を見るのは最後だと。

(まだあってそれほど経っていないのに、いつの間にこんなに好きになってしまったのだろう……)

悠也は黙ったまま理子を見つめていた。

(わかったら早く帰ってほしい……これ以上一緒にいたら、ずるい言葉を言って久我副社長を引きとめようとしてしまう……)

理子は涙でほんの少し滲んだ目をぎゅっと閉じる。涙は見られたくなかった。

その時、悠也が口を開いた。

「理子さん、先ほどの元婚約者はまったく気になりませんが、もうひとりの彼は気になりますね。正直に聞きます。その彼と寝たのでしょうか?」

「っ! 絶対にそんなことはしていませんっ! キスだって! カフェや居酒屋で食事をして……彼が美容師なので髪をカットしてもらった。それだけなんです」

言い訳がましいが、ちゃんと答えてほしいのだろう。

悠也は軽く頷いている。

「それなら男友達ですね。そして、俺は恋人」

「えっ!? 今……なんて……?」

「俺は社員だと黙っていたことも、もうひとりの男のこともなんとも思っていません」

悠也は思い出し笑いをしたようにフッと口元を緩めた。

理子に悠也の頭が理解できない。小さく傾げるようにして理子は悠也を見つめる。

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