甘い恋の始め方
「29歳でも、なんて言わないの。最近の花嫁さんはそれくらいの年で結婚するなんてざらなんだから。理子ちゃんが気になっているのはこれかしら?」

「はい。お姫様みたいなロマンティックなドレスですね。でも――」

「でもじゃないわ。私も夢のあるドレスは好きなの。理子ちゃんに似合いそうだわ。そこに掛けて」

康子は腕にかけていたドレスをアシスタントの女性に渡すと、デザインブックを手にして白いソファに腰かけた。

それからサラサラとデザインを描き始める。

「素敵なお嬢さんで本当に良かったわ。実は悠也が結婚相手を連れてきてくれるなんて期待していなかったの。聞いているかしら? 10人以上のお嬢さんとお見合いをさせたのよ。でも、悠也は会うだけでその後のデートは一切しないの。ほとんどのお嬢さんが悠也を気に入ってくれたのに」

サラサラとえんぴつを紙に滑らす音と共に、その時のやきもきした気持ちを思い出したのか、ため息が聞こえる。

(私、少しは自信持ってもいいの?)

悠也なら誰にでも気に入られるだろう。だけど、デートに発展しなかった。だが、理子の場合、その日にセックスした。

< 184 / 257 >

この作品をシェア

pagetop