甘い恋の始め方
混雑している電車に揺られていると、眩暈のようなものに襲われる。暖房の入ったムワッとした空気、体臭やら香水やらで理子の胃が暴れはじめていた。

(早く着かないかな……)

あと一駅で降りられる。目を閉じて電車が止まるまで我慢の時間だった。

『六本木~ 六本木~……』

車内アナウンスに安堵し、ドアが開くと飛び降りるように外に出る。

「ふぅ~」と一息吐くと、前かがみの姿勢を正して改札に向かって歩き出す。

無意識に手が額を触る。

汗ばむ額。冷や汗をかいていたことを知り、バッグからハンカチを出してそっと拭う。

(会議は何時からだっけ……)

改札を抜けてからハンカチと入れ替えにスケジュール帳を出し今日の日付を探す。会議は13時からだった。

(その前に診療所へ行ってこよう)

同じビルの2階に内科の診療所がある。

足取り重く駅の通路を歩き、エレベーターを待っていると背中を叩かれた。

「おはよ!」

加奈だった。

「おはよう」

元気なく返事をした理子に加奈が「あっ!」と思い出した。

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