甘い恋の始め方
「加奈、いいの。気にしないから」
事実、自分はもうすぐ30歳になる。会社で悠也がモテる存在だったのもわかり過ぎるほどわかっている。
「そうね。ただのひがみだわね」
加奈は腰を下ろし、座りなおす。
少しして先に来ていた噂話好きのふたりは店を出て行った。
その間、当たり障りない話をしていたのだが、加奈が再び婚約の話を持ち出した。
「理子、怒らないで聞いてね?」
「え? いったいどうしたの?」
加奈が突然神妙な面持ちで、手は水の入ったグラスをいじっている。
「どうしてまだ会って数回なのに結婚を申し込まれたのか不思議なんだけど?」
「ぁ……それは彼を育ててくれた叔母様が病気で」
死に関わる病気だと言っていいものだろうか、理子は言葉を切った。
「いろいろ事情はあるだろうけど、理子は本当に副社長と結婚しても良いの?」
「もちろんよ。加奈も賛成してくれていたじゃない」
「そうだけど……あまりにも展開が早すぎて理子が不幸せになるんじゃないかって不安になったのよ」
「大丈夫よ。私たちは大人ですもの。なにがあっても折り合っていけるわ」
口ではそう言ったものの、以前悠也が付き合っていた人の話を聞いてしまってから胸がざわめいている。
(社内恋愛していたんだ……)
悠也の恋愛噂話はこれまでも聞いていたが、社内恋愛をしていたのは初めて知った。素敵な人だから、恋人もいただろう。それは割り切っているはずだったのに理子は悲しくて仕方なかった。
(私は過去の女性に嫉妬しているけれど、悠也さんは私の過去に嫉妬してくれはしない)
事実、自分はもうすぐ30歳になる。会社で悠也がモテる存在だったのもわかり過ぎるほどわかっている。
「そうね。ただのひがみだわね」
加奈は腰を下ろし、座りなおす。
少しして先に来ていた噂話好きのふたりは店を出て行った。
その間、当たり障りない話をしていたのだが、加奈が再び婚約の話を持ち出した。
「理子、怒らないで聞いてね?」
「え? いったいどうしたの?」
加奈が突然神妙な面持ちで、手は水の入ったグラスをいじっている。
「どうしてまだ会って数回なのに結婚を申し込まれたのか不思議なんだけど?」
「ぁ……それは彼を育ててくれた叔母様が病気で」
死に関わる病気だと言っていいものだろうか、理子は言葉を切った。
「いろいろ事情はあるだろうけど、理子は本当に副社長と結婚しても良いの?」
「もちろんよ。加奈も賛成してくれていたじゃない」
「そうだけど……あまりにも展開が早すぎて理子が不幸せになるんじゃないかって不安になったのよ」
「大丈夫よ。私たちは大人ですもの。なにがあっても折り合っていけるわ」
口ではそう言ったものの、以前悠也が付き合っていた人の話を聞いてしまってから胸がざわめいている。
(社内恋愛していたんだ……)
悠也の恋愛噂話はこれまでも聞いていたが、社内恋愛をしていたのは初めて知った。素敵な人だから、恋人もいただろう。それは割り切っているはずだったのに理子は悲しくて仕方なかった。
(私は過去の女性に嫉妬しているけれど、悠也さんは私の過去に嫉妬してくれはしない)