甘い恋の始め方
(本当に旅行に出かけたのか。実家にいるのではないだろうか)

悠也はパソコンから人事ファイルを出し、理子の実家の電話番号をメモ用紙にひかえる。

理子の写真が目に入る。

大学を出たての理子のプロフィール写真は今より顔がふっくらしている。

(可愛いな)

この頃にはない色香が漂う女性になった。

ファイルを閉じようとしたとき、数字が飛び込んできた。

(12月24日が……理子の誕生日?)

なおさら、理子は自分の誕生日、そして自分から逃げたのではないかと悠也は考えた。

しかしずっと理子のことばかりを考えていられず、悠也は実家の電話番号をひかえたメモ用紙を破り丸めてゴミ箱へ放る。

それから集中しない時間が過ぎていった。




「まだ書類が出来上がっていないんですか? 今日の15時までと言ってあるはずですが?」

肩に受話器を挟みながら、悠也はワイシャツの袖をくいと引っ張り腕時計を見る。16時を回っている。

悠也の電話の相手、上海企業の担当のプロジェクトマネージャーは「30分お時間をください! 申し訳ございません!」と平謝り状態。

いつもはこれくらいで温和な悠也がきつく言うことはないのだが、今日は理子と連絡がとれなく苛立っていた。

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