甘い恋の始め方
プロジェクトマネージャーの電話を切り、乱暴に受話器を置くと入口からした篠原の声に顔を向けた。

「なにを苛立っているんだ? お前らしくないな」

「どうもこうも朝からうまくいかないんです」

篠原は苦笑いを浮かべながら、ソファにドカッと腰を下ろす。

「うまくいかないって?」

とぼけた口調だが、悠也は気づかずにソファに座った。

「おーおー、わが社の貴公子が上着も脱ぎ、ネクタイを緩めているなんて驚くじゃないか」

悠也は暑い夏でもネクタイをきっちり締めているくらい仕事中は身だしなみを乱さない。

「からかいに来たんですか? それなら別の者にしてください。付き合う気分じゃないんです」

悠也は篠原を追い返そうとした。

「もしかして、小石川理子さんにフラれたのか?」

「は? どうしてそうなるんですか? 結婚を良く考えてほしいと言われただけです。重大なことを告げたくせに突然旅行に出てしまったんですよ」

「そうなのか……実はな? 俺が原因だ」

篠原が悪びれた様子もなく、悠也に告げる。

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