甘い恋の始め方
「俺のせいって、やっぱり彼女となにかあったんですね!?」

今にも掴みかかりそうな悠也の様子に、篠原は両手を身体の前に出して待ったをかける。

「いや、お前に気持ちを見つめなおしてもらいたいと思ってな」

「いったいなにを言っているんですか? 理子になにか言ったんですね? 数日前から様子がおかしかったんです。ただのマリッジブルーかと思っていた」

かみつきそうな口調の悠也は久しぶりだなと、篠原は思い眺めていた。

「彼女にお前と結婚する理由を聞いたんだ」

「なぜそんなことを聞いたんですか!」

「そうだな。金目当てだと思ったんだがな……お前を愛していると言った。ま、お前に惹かれないはずはないだろうが、問題はお前なんだよ」

「俺が問題?」

「そうだ。結婚ってのはな? お互いが慈しみあって愛し合ってこそ成立するんだ。一方通行じゃ成り立たない。つらくなるのは彼女だ。お前は彼女を愛していないんだろう? 康子さんのために結婚するんだからな」

真剣な顔つきで見る篠原に悠也の眉根が寄る。

苦悩の表情を浮かべる悠也を見て、篠原は満足げに頷き立ち上がる。

「お前の地位や財産目当ての女だったら、俺の言うとおりにしないだろう。彼女は本気でお前を愛している。だからこそ、お前に考える時間を与えたんだ。ま、お前のその態度をみれば、少なからず好意を持っていると思うが」

悠也の肩をポンポンと叩いて篠原は出て行った。

「まったく……引っかきまわされるのは金輪際結構です……」

ドアが閉まってからため息交じりに呟く。

(愛か……俺は彼女を苦しめていたんだな。戻ってくるのを待つしかないか……)

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