甘い恋の始め方
「先に帰ります」

「帰る?」

悠也は呆気にとられた顔だ。

(服を着ていたのに、またベッドに戻ると思っていたの?)

「はい。帰ります」

「そっけないんですね。送らせてももらえないんですか?」

「はい……じゃあ」

悠也の静かに問う声がしたが、理子は彼の顔を見ないようにバッグを肩に掛けながら言った。

「待って。連絡先ぐらい教えてくれてもいいんじゃないんですか?」

ドアに向かう理子の足が止まる。

(本当に知りたいの?)

理子は部屋の中へ戻ると、デスクの上のメモ用紙に自分の携帯の番号を書いた。

そう言うのは形だけのことなのかもしれない。

書いたメモを一枚ビリッと破ると振り返る。

すぐ近くに悠也が立っており、ギリシャ神話の彫刻のようなキレイな胸板に、振り返った途端顔をぶつけてしまう。

力強い腕に腰を抱き寄せられ、唇を奪われる。

先ほどの情熱を思い出させるキスのあと、額に唇が押し当てられ身体が離される。

それからじゅうたんの上に落ちてしまったメモを悠也は拾う。

「電話します」

(本当? 本当に電話してくれるの?)

思わずそう聞いてしまいそうだった。

しかし理子は押し黙り、こくっと頷くと部屋を出た。


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