甘い恋の始め方
時計を見ると、9時50分。

「あれ? 理子、早いのね?」

「おはよう。やっておきたい仕事があったから」

加奈が理子のデスクに近づき、パソコンの画面をのぞく。

「これって締め切りがあと3日ぐらいあるんじゃなかったっけ?」

「他にも営業から頼まれているからやっておきたかったの」

営業から頼まれているのも1週間の余裕はあるのだが。

「ふ~ん」

加奈は腕を組んで意味ありげに笑った。

「で、婚活パーティーはどうだった?」

理子は頭を振る。

「食事は美味しかったけれど……」

「けど?」

そこへ課長たちがぞろぞろと部屋に入ってきた。

「おはようー」

体育会系の35歳、良きマイホームパパさんである課長は今日も元気だ。

「「おはようございます」」

「あれ? 小石川さん、なにかいいことあった? いつもと雰囲気が違う気がするよ。肌が輝いているっていうか、エステに行った?」

意外に鋭い課長に心臓がドキッと跳ねる。

「なにもないです」

跳ねた心臓を無視して軽く言葉を返すと、横にいた加奈が「それもセクハラ発言ですよ~ ね~ 理子?」と笑い、課長から理子に三日月のような目を向ける。
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