甘い恋の始め方
出される料理に合った極上のワインのせいもある。

「ワインは?」

中身の減ったグラスを見て悠也が聞く。

「いいえ。もう十分です」

悠也の魅力に引き込まれ過ぎないよう、飲みすぎてはだめだと、気をつけている理子だ。

「もうこんな時間か」

悠也は腕時計を見て微かに驚いた顔だ。

時刻は22時をまわっていた。

「今日は送っていきますよ」

会話の中からお互いの住まいがわかった。

理子の住まいのある代官山は悠也のマンションがある神宮外苑前とそれほど離れておらず、タクシーで移動してもそれほど時間はかからない場所だ。

今日は親密な関係にならないと心に決めていた理子だが、さらっと送っていくと言われて悠也の自分への関心が薄れてしまったのかと気落ちする。

タクシーに乗ってからも一言二言話すが、甘い雰囲気はない。

なんとなく上司と部下みたいな感じだ。

自宅に着くまで理子は悩んだ。

(もう誘ってもらえないかもしれない?)

タクシーがマンションの前に到着すると「コーヒーを飲んでから帰りませんか?」と誘ってしまっていた。

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