甘い恋の始め方
「ち、違いますっ!」

震える声で大きく否定し、恥ずかしさから悠也に背を向ける。

(ホント、私って恋愛下手なんだからっ。悟られるようなことを言ってはダメ)

「理子さん」

ふいに耳元で悠也の声がして、ウエストに両腕が回る。

耳朶に触れる吐息に、理子の背筋がゾクゾクし立っていられなくなりそうだ。

「これでも我慢しているんです。君から煽らないでくれませんか?」

髪をそっと片側に撫でつけられ、露わになった耳朶を軽く食まれる。

「ゆ、悠也……さん……」

腰に回った腕にくるりと振り向かされると、奥二重の艶めいた視線とぶつかる。

「君の身体が目当てだと思われたくなかったんです。食事と楽しい会話……それだけで十分だったはずなのに」

「悠也……」

悠也の顔が下りて理子の唇を塞ぐ。

啄むようなキスは本当に愛されているかのようで錯覚してしまいそうだ。

その気持ちは長く続かず、そっと身体を離される。

「残念だけどもう帰ります。明日から半月ほど出張で上海へ行ってきます。また連絡します」

「出張……」

「新しいシステムを売り込みにです。まだ出張の用意が終わっていないので失礼します」

「あ……お忙しいのに引きとめてごめんなさい」

「いいえ。戸締りに気をつけて」

理子の額にひとつキスを落とし、悠也は出て行った。


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