甘い恋の始め方
「しっ、久我副社長が」

「えっ?」

「来るでしょ!?」

悠也の姿を確認した加奈がこそっと頷く。

(絶体絶命! どうしているの? 夜に帰って来るって言っていたのに!)

部下と話をしながら歩いていた悠也がだんだん近づいてくる。

「やばっ! 来るわ。まさか気づいたんじゃ!」

「加奈っ、なんとかごまかしてね」

理子はばれてしまうのを覚悟した。

それでも最後の悪あがき。

理子は背を向けて俯く状態のまま動かないでいた。

近づいてくる男性2人の足音がやけに大きく聞こえる。

理子の心臓はバクバク破裂しそうで、胸に手を置いた。

「どうかしましたか? 気分でも?」

加奈に聞く悠也の声がした。副社長だというのに、社員にも敬語を使う。

「だ、大丈夫ですっ、お気遣いなく!」

加奈のテンパった声。

理子は悠也が行ってくれるように、目をぎゅっと閉じて祈った。

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