ウェディング・チャイム

 ん? やっぱり諦めない、って言ったところを見ると、実は既に諦めていたということ?

 だとしたら、ここはやはり彼女にだけは素直に認めたほうがいい。もう教育実習は終わったのだから。

 覚悟を決めて、大崎先生ともう一度向き合う。なるべく穏やかに、素直に話そう。


「お願いだから、この話は大崎先生の胸にしまっておいてくださいね」

「もちろんです」


 真剣な顔で頷いてくれたのを見て、自分の気持ちを整理する。

 子どものいない教室に響く、時計の秒針の音が数回。

 私はちょっと深呼吸してから口を開いた。


「私にとって甲賀先生は……公私ともに大事な人です。毎日少しずつ、好きっていう気持ちが積み重なっています。敏感な大崎先生にはバレる位に、ね?」


 これが、今の自分の正直な気持ちだった。

 甲賀先生のパートナーになってからやっと五か月が過ぎて、色々なところが見えてきた。

 人柄も、仕事に対する姿勢も、尊敬できる男性。

 甲賀先生は、私を大事に扱ってくれた。

 対等な仕事相手へと育てるために、飴と鞭を使い分けているところも、私の今後を考えての対処。

 仕事上の信頼関係はできていた。

 ただ、仕事を離れてふたりで話す機会はめったにない。

 ……だからさっき、携帯を使うべし、みたいな忠告を受けたのだろう。

 実は携帯で話すのも、一学期の評価事務の時以来、一度もなかった。

 いや、本当は学校でほとんど話せない今こそ、携帯に頼ることもできたはずなのに。

 まるで携帯を持たせてもらえない中学生……ごもっともです。
 

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