ウェディング・チャイム
 
 今まで聞いた話でびっくりしたのは、はしゃいだ子ども達が和室の鴨居(かもい)にぶら下がり、重さに耐えきれなくなった鴨居は子ども達をぶら下げたまま落下……。

 子ども達はけがをして、部屋をひとつ破壊してしまったそうな。

 修学旅行前の学級会で、私は子ども達にこの話を聞かせた。

 するとみんな「そんなバカなことは絶対しないってば~」「あり得ないっしょ~」などと笑っていたけれど、ハイテンションな子ども達は本当に何をやらかすかわからない。

 ……そんな訳で、甲賀先生と私は只今、廊下の突き当たりに座り込んで見張りをしている。


「藤田ちゃん、風呂入ったか?」

「……当然まだですよ。甲賀先生は?」

「俺もまだ。ここ、湯の花が凄くてさ、特に露天風呂がいいんだよな~。明け方に朝日でも見ながら入ろうかな~って。その頃なら子ども達も爆睡だから」

「じゃあ私もそうします」


 教育実習が終わってから修学旅行まで五日間しかなくて、話す内容といえば切羽詰まった引率関係のことばかりだった。

 大崎先生から色々と忠告を受けたけれど、それに対処できる時間もないまま『今』に賭けていた。

 ようやく今夜、じっくり甲賀先生と話ができるはずだから。

 ああそれなのに……。


「……またキタキツネの間でプロレスか。行ってくる」

 そして聞こえる、甲賀先生の密やかな、だけどドスの効いた声。

 やれやれ、と思っていたら、反対側のエゾリスの間から甲高い笑い声が響いてきた。

 仕方がない、私も行ってくるか……。

 私達も鬼じゃないので、こっそりこんな風に言って回っているのだ。

「大きな声を出されると、他の人の迷惑になるから注意しに来なきゃならないの。だからこっそり話してちょうだい。廊下に漏れないようにすれば、注意しに来ないから」

 嬉しいのも、今しかない時を楽しみたい気持ちもよく解るから、ね?


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