ウェディング・チャイム

 こうして、男子の部屋は甲賀先生が見回り、女子の部屋には私が行って……という、引率担任の『残業』が、就寝時間を三時間以上過ぎた十二時半過ぎまで続いた。


「ふぅ、やっと落ち着いた、かな?」

「表面上は、だけどな。今頃こっそりブタメンにポットのお湯注いで『うまっ!』とか言ってるかも知れないぞ」

「あ~、それでみんなおやつにブタメン持って来てるんですか。今時の子ども達は夜食持参で修学旅行を楽しむんですね~」

「ま、それ位は大目に見てやらなきゃな。自分達が子どもの頃だって、先生達は目をつぶってくれたんだろうし」

「そうですね。でも、バスの中で具合が悪くならないように、少しでも寝てくれたらいいんですけれど」

「多分大丈夫。みんな帰りのバスは爆睡だからさ。俺達も含めて」

 ふたりで頷きながらこっそり笑う。
 
 お互い、パジャマや温泉の浴衣などを着ている余裕は全くないので、またまたアディダスのジャージで体育座り。

 就寝時間を過ぎた廊下は、照明を最小限にしてもらっている。

 私達の頭上には非常口の緑色の明かりが灯り、手元に置いてある部屋割り表の紙を照らしていた。


「あの、甲賀先生、今まで私……」

 やっと、のんびり話せるだろうと思って、話しかけたその時。

 タンチョウヅルの間のドアがそっと開いた。

 出てきたのは、紗絵ちゃんと里香ちゃん。暗闇でよく見えないが、二人ともしゃくりあげて泣いているようだった。

「何かあった?」

「先生、私達、どうしたらいいの?」

< 104 / 189 >

この作品をシェア

pagetop