ウェディング・チャイム

「里香は、このクラスになるまでその人のことをよく知らなかった。だから好きになったのは三人の中では一番遅いの」

「うん。それで……?」


 まだ一言も発していない紗絵ちゃんの顔を、私と里香ちゃんが同時に見た。

 すると、観念したかのように、紗絵ちゃんが重い口を開いた。


「私は保育園の頃から一緒だったの。いつから好きになったのか、気がつかないくらい前から好きだった。彼の家にもよく遊びに行ったし、うちのお母さんと彼のお母さんも仲良しで……」

 私は静かに頷きながら聞く。

 隣に座る里香ちゃんの目からは、また新しい涙が溢れ出した。


「舞花は小学校に入学して彼と一緒のクラスになって、その時好きだったんだって。でも、三年生のクラス替えで彼と離れた時、他の子を好きになってた。彼に一途じゃない舞花には絶対渡さないってところで、私と里香は団結してるの」


 小学生の三角……いや、四角関係がリアルに展開されていて、何だか呆気にとられてしまった。


「でもね先生、実際にもしこの三人が告白したらどうなると思う? 誰が見てもアイドル並みに可愛い舞花と、勉強もスポーツもできる里香と、何も取り柄のない私……」


 紗絵ちゃんの目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。


「こんな私じゃ、稜君には不釣り合いなのは解ってる。でも、ずっと好きだったんだもん……」


 ついに好きな人の名前を暴露してしまったことにも気づかない様子で、二人は泣きじゃくりながら自分の気持ちを吐露していく。


「こんな私、なんて言わないでよ。紗絵はいつだって優しいし、本当は里香よりずっとしっかり者だもの。それに、稜君を一番好きなのは紗絵だって解っちゃったから、諦めようと思ったんだ。……でも、ダメだったの。ごめん、紗絵!」

 そう言うと、里香ちゃんはしゃくりあげて泣いた。紗絵ちゃんも溢れる涙をぬぐいながら、里香ちゃんに「私こそごめんね」と繰り返している。

 ……どうやら、修学旅行の夜恒例の恋バナから『恋と友情の狭間で思い悩む悲劇的な私達』を作り上げ、その気分に浸ってしまったようだ。

 恐るべし、深夜テンション!


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