ウェディング・チャイム

「……ひとりでいるしかない状況の子だって周りから見られるのが恥ずかしいお年頃なんです。ひとりぼっちに耐えられない子は、どれだけ悪口を言われても我慢して、気を遣いながらグループの構成員になりますけれどね」


 そう言いながら、自分の指先が冷たくなっていくのを感じた。冷たい瓶に触れていたせいだと思いたいけれど、そうではないということは自分が一番よく解っている。 

あれからもう、十年以上も経っているというのに。


「なるほどね」


 うんうん、と頷きながら、甲賀先生が私の顔をじっと見ている。薄暗い廊下で、非常口の青白い光が甲賀先生の真面目な表情をぼんやりと照らす。


「……藤田ちゃんの子どもの頃はどうだったんだ?」

「語ると長くなりますよ。しかもあんまり面白くないですけれど」

「長い話、大歓迎。ちゃんと語ってくれなきゃ、俺がここで眠気覚ましの百物語をはじめるぞ」

「それだけはやめてください!」

「じゃあ、藤田ちゃんの可愛い子ども時代、想像しながら聞かせてもらおうか」


 軽くにこっと笑って、話を促された。……多分、私があまり話したがらないのを感じているはず。それでも聞きたがっているのは、眠気覚ましのため?

 一度大きく息を吸い込んで、両手を上に伸ばして深呼吸した。今まで先生はもちろん、親にも相談できなかった私の思い出を吐き出すために。


「私、小学校高学年から中学卒業までずっと、教室ではひとりでいました」


 決死の覚悟で呟いた。いじめられていた冴えない自分を、好きな人にさらけ出すなんて、できれば避けたい。でも……。


「……そうか。群れずに自分の道を進んだんだな、さすが藤田ちゃん」


 そう言ってすぐ、甲賀先生が突然きょろきょろと辺りを見回した。誰かが部屋で騒ぎ出した訳でもなかったのに何故?

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