ウェディング・チャイム
首をかしげる私に向き合い、そっと手を私の頭の上に置いた。驚いて固まる私の頭を、大きな手が撫でる。ゆっくりと、慈しむように。
「俺達にとっては耳にタコができるほど使い古されたフレーズだけど、言わせて欲しい」
「……どうぞ」
私が頷くのを確認して、目線を合わせるために少し前かがみになった甲賀先生が、低く、落ち着いた声で囁いた。
「藤田美紅さん。君は何も、悪くないよ」
また、頭を優しく撫でられる。
「今のこの姿を、当時無視していた意気地なしのお団子女子に見せてやりたいね」
「お団子?」
「そう。良心より、横並びの安心感と均一性を選んだヘタレだろ。男から見たら、竹串が刺さってるイタい団子だってのに気づいてない奴ら、だからさ」
想像したら、ちょっと笑えた。
「でも……いじめられる側にも問題がある、なんて言いますよね。私の場合、まさにそれでしたから」
「仮に何かあったとしても、君は悪くない。一人ひとりの人格を尊重できる人間を育てるのが学校であり、クラスなのだから」
確かに、大学や現場でも、私達はそう習ってきた。でも世の中、きれいごとだけでは済まされないのは子どもの世界も同じ。
「お恥ずかしい話ですけれど、私側に問題があったんです。いえ、正確には私の家族に、と言った方がいいかも知れません」
「家族の問題なら、ますます君の人格には関係ないと思うけれどね。それで?」
「……父の不倫相手がクラスメイトのお母さんで、両方の家庭が崩壊しました。母がクラスメイトの家に乗り込んで、危うく刃傷沙汰になるところだったんです。小さな町でしたから、あっという間に噂が広がりました」