ウェディング・チャイム
ただひとつ、私が悪かったところがあるとすれば……。
「そうですね。今ならわかるんです。自分だけではどうにもならないって感じた時点で、誰かに相談すべきでした」
私がそう言うと、甲賀先生も力強く頷いてくれた。
「誰にも言えないって決めつけるんじゃなく、誰なら親身になって聞いてくれるかなって考えればいいんだよ。こういう時は人間、ずる賢く立ち回らなきゃな。大人になってこの仕事をしてみたら、誰に相談するのがベターか解るだろ」
ベストではなく、ベター。学校の先生になった今、かつての自分にアドバイスしたいと思うのは。
「まずは養護教諭に相談でしょうか。スクールカウンセラーが常駐していない学校で、担任以外に相談しやすいのは、やっぱり保健室の先生ですよね。でも、即効性を求めるのであれば、教頭先生か校長先生です」
「そうだな。全校児童の情報を一番持っているのが養護教諭だし、そういった相談事にも慣れているから、適切なアドバイスをくれた上で、目立たないように担任やクラスメイトにも気を配ってくれる。管理職に相談した場合は、すぐに担任と話をつけて、児童が過ごしやすい環境にするため、最優先で動いてくれるはずだ」
「でも、今の自分の立場……担任としては、やっぱり自分に相談して欲しいなって思うんですよね」
自分は担任に相談できなかったのに、児童からは頼られたいなんて、都合のいい話かも知れない。でも、見ないふりをしていた先生に打ち明けても、きっと困らせてしまうだけだと思ったら、言えなかった。
私は、絶対に見ないふりはしない。大勢の中でいつも孤独な子がいたら、気づく自信がある。だって、かつての自分みたいな子どもをひとりでも多く励ましたいっていう願いから、この仕事を選んだのだから。
「ああ、それなら大丈夫だと思うぞ。さっきの対応、良かったよ。いじめではないけれど、恋バナっていう、極めて個人的な話を打ち明けられた上『相談して良かった』と思って部屋に戻っているんだからな。ひとりぼっちで耐えたことも、うまくいかない恋愛も、全部教員としての糧になるのであれば、無駄なことはひとつもないだろ?」