ウェディング・チャイム
にっこりと、微笑まれた。経験から学ぶことは沢山ある。先に生まれた経験を子どもに伝えるから『先生』って呼ばれるんだと、ゼミの教授も言ってたっけ。
「そう考えたら、黒歴史も有意義なものになりますね」
「だろ? 思い出したくもない辛い過去だって、子ども達を同じ目に遭わせないための『教材』にできるんだよな……まあ、俺の黒歴史はちょっと小学生のおこちゃま相手には使えないけどさ」
……もしかして、例の結婚まで真剣に考えていた彼女とのこと?
だとしたら、怖いけれど聞きたい!
「それって、二十四歳独身女性の『教材』になりますか?」
思い切って聞いてみると。
「ある意味、いい『教材』だよ。ただし、これはあまり広めたくない『教材』だから、そこんとこよろしく。お互いの黒歴史、みんなには秘密にしとくって事で」
「わかりました」
もちろん、と何度も首を縦に振ると、甲賀先生は苦笑いしながら頭を掻いた。
「さて、何から話そうか……聞きたいことは?」
「えっと、彼女さんとはどこで知り合ったんですか?」
まずはとても基本的なことから質問してみた。すると、おどけた口調で、意外な言葉が返ってきた。
「修士一年目がもうすぐ終わるって頃、合コンに駆り出されたんだ。たまたまドタキャンした奴がいて、人数足りないから出てくれってゼミの先輩に頼まれてさ。それが出会い。女子大で栄養士になるための勉強をしてるって言ってたんだ」
女子大、栄養士……女子力の高そうな女性がイメージできた。悔しいけれど。
「連絡先を交換したら、向こうからメールが来た。今度、お弁当持ってお花見に行きましょうってね。社交辞令だと思ったら、本当に豪華なお弁当を持って大学に現れた」