ウェディング・チャイム
こちらを見てにこりと笑ってくれた。さっきまでの苦笑とは違う、自然な笑顔にほっとした。
うんうん、確かに『彼女』は可愛らしい。私はそんなに詳しくないけれど、思うままに歌ってくれるらしいし、モニターの向こう側でニコニコ歌い踊る姿は生身の人間には出せない『萌え』要素がある。
……なぜ長ネギを振り回しながら歌っているのか、謎だけど。
「そうですよね~。新しい恋愛にきっと毎日癒されていたんでしょうね~」
画面の向こうの彼女に癒しを求めたくなる気持ちもわかる。
「お、わかってくれるか! そうなんだよ、何だかんだ言って、やっぱり近くにいて毎日のように会えるっていうのはポイント高いよな?」
「毎日会いたいって、やっぱり思うものですか?」
きっと、PCを立ち上げる度に見ちゃうんだろうな。でもって、ついつい仕事を忘れちゃったりして。想像すると何だか笑える。
「もちろん。会えない日は寂しいし、今頃何してるんだろうって想像する」
……さすがの甲賀先生も、期末業務とかの修羅場には『彼女』を封印してお仕事に励んでいるのね、きっと。それにしても、まるで生身の人間のような入れ込みっぷりにちょっとびっくり。
「そ、そこまで想像してるんですか!? 何だか凄いこと聞いちゃったような……」
驚いて甲賀先生の顔をのぞき込んだら、心なしか照れているように見える。非常口の明かりで、顔色までははっきりしないけれど。
「俺も『深夜テンション』で結構凄いこと言ってる。……子ども達には絶対に聞かせられない」
確かに!
甲賀先生がこんな事考えてるなんて子ども達が知ったら、ドン引き間違いなし!
「真面目な話、まさか自分がこうなるとは思ってもみなかったよ。目の前で必死に頑張っている姿を毎日見ていたら、いつの間にかほっとけない存在になっててさ……」