ウェディング・チャイム
そうだったんだ……。失恋の傷を癒してくれたあの愛くるしいキャラに、そこまで思い入れが深かったとは。
私が入り込む余地は果たしてあるのだろうか。
いや、三次元が二次元に負けてどうする!
……でも、毎年夏と冬に開催されているビッグイベントの様子をTVで見ていたら、あの会場では三次元完敗、二次元に成りきったもの勝ちってカンジだし。
ああでも元はといえば生身の女性と付き合っていた人なんだけど……。
「……何を考え込んでいるんだ?」
「え、いや、頭の中で対決してみたんですが、私に勝ち目はありませんでした……」
「何だそれ!?」
「……自分の女子力の低さを今、反省しているところなんです。私、勉強や仕事に夢中になり過ぎていて、そういったことが全部後回しになっていたので」
私の答えを聞いてなお、甲賀先生は不思議そうな顔をしていたけれど、そのうち膝をぽん、と叩いた。
「藤田ちゃん、また何か勘違いしてると思うぞ、それ。でもあえて訂正はしない。俺の一世一代の告……いや、発言だったんだけどな。まあいい。対決してくれたっていうことは、脈あり、だもんな」
あれ? どうやら私は何か的外れなことを言ってしまったらしい。でも、甲賀先生は上機嫌で話を続けた。
「やっぱ積み重ねが大事だってことだよな、勉強も、人間関係もさ。合コンで出会ってすぐ付き合って、一年経たないうちに結婚の約束して……って、焦り過ぎてたんだ。今思うと、彼女の作る料理は確かに美味かった。でも、それ以外の彼女の良いところを挙げろって言われたら、正直なところ思い出せないんだ」
「美人だったんじゃないですか?」
「ん~、確かに見た目はね。ただ、頑張ってる感っていうのかな、すっぴんなんて見たことなかったし、いつもフルメイクで洋服とか小物にも気合いが入ってた。俺のために頑張ってると思っていたけれど、そうでもなかったみたいだしさ」
「常にフルメイク……私には無理です」
「だろうな。今だってほぼすっぴんだろ? だが、そこがいい。なんてね」
「あんまり見ないでください。化粧直ししている時間なんて、この仕事やってたらある訳ないんです!」
「別に化粧なんてどうだっていいさ。藤田ちゃんは肌も髪も綺麗だから。逆にこの仕事やってて、常にフルメイクで気合いの入った服装だったら、保護者から色々と詮索されて面倒くさいだけだ。今のままで十分だし、そのまま変わらないで欲しいよ」