ウェディング・チャイム

 そこに集まっている保護者の皆さんの顔を見ながら、ゆっくりと話した。

「小学校生活最後の年ですから、子ども達の活動を間近で見られるのも最後です。私は一昨年まで中学校に勤務していましたが、中学校のPTA活動は子ども達と直接関わる機会が少ないです。学級代表さんには、連絡網の先頭になって頂いたり、学級レクの計画などで色々とお手数をおかけしますが、どうか子ども達のためにお願いします」

 深々とお辞儀をして、それから正面を向いた。

 でも、誰からも声が上がらない。

 そうだよね、誰だってこんな面倒な仕事は引き受けたくないはず。

 だけどお願い、誰か引き受けて下さい……。

 


「あの、私で良ければ……」

 重い沈黙を破って手を挙げてくれたのは……髪の長い、優しそうなお母さん。

 森川稜(もりかわ りょう)君のお母さんだった。

「えっ! 本当にいいんですか?」

 思わずそんな事を口走ってしまった私に、森川さんは優しく笑いかけながら話してくれた。

「私はフルタイムで勤務していますから、平日のお昼は活動できません。日中、もし連絡網を使うようなことがありましたら、職場にご連絡頂いて、私は携帯から皆さんへ回すことになりますけれど、それでも良ければ喜んで」

 それはもう、引き受けて下さるのであれば携帯や職場の内線、どこでも対応いたします!

「あ、ありがとうございます! とても助かります!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

< 12 / 189 >

この作品をシェア

pagetop