ウェディング・チャイム
顔を洗い終えた私は、気まずくならないように自分から校長先生と甲賀先生へ声をかけた。
「お疲れ様です」
「藤田先生、ちょっと甲賀先生をお借りするね。すぐに返すから」
「はい、どうぞどうぞ」
フレンドリーな校長先生の隣で歩く甲賀先生の表情は、やや固いように見えた。この時期、校長先生に呼ばれるとしたら、児童に何かあったか、来年度の人事か……。
甲賀先生は、この学校へ来て今年で七年目。そろそろ次の学校へ異動する時期、なのかも知れない。
今受け持っている六年生が卒業する来年三月の異動が、ちょうどいいと考えてもおかしくはない。
だとしたら、一緒に働くことができるのは、あとたったの五ヶ月。
今までだって、色んな同僚の異動を見てきたし、自分自身も講師をしていた中学校を退職して、この小学校へ赴任してきた身だけれど。
……寂しい。
これからもう、あの机の山の雪崩に怯えることも、妙な知識を植え付けられることも、優しくて時にシビアなアドバイスをもらうこともなくなってしまうのかも。
このままでいいの?
自問自答しながら、バック絵に色をつける。真っ赤に燃え盛る炎を描きながら、寒さに身を震わせた。
深まる秋と共に、子ども達の巣立ちと甲賀先生の離任が近づくのを感じる。
残された期間で自分に何ができるか、もう一度振り返りながら刷毛を動かした。