ウェディング・チャイム
……その後。
子ども達は甲賀先生が編集した音源のお蔭で、気持ちよく歌うことができるようになり、私も伴奏の練習と本番トチらず弾くというプレッシャーから解放された。
生演奏ができればそれに越したことはないけれど、主役である子ども達がのびのび、生き生き活動している姿を保護者に見てもらうことのほうがずっと大事。
甲賀先生は「もっと早く作ってやれば良かったんだけどな」と言っていたけれど、お互いものすごく仕事が忙しくてそれどころじゃなかったのも知っている。
そして、私と同じ名前の某アーティストに傾倒しているはずだった甲賀先生が、最近になってやたらとそれを否定している。
……修学旅行の夜の話と違っているのは、私の勘違いだと言い張っているのだけれど、多分それは「黒歴史」になりつつあるからなんだろうな~と思って、微笑ましく観察させてもらっていたりして。
もちろん、学習発表会当日のミュージカルも成功した!
保護者はもちろん、来賓までこっそり涙を拭っていたのを、私は見逃さなかった。
こういった題材の選び方、当日までの指導の仕方、そして趣味と実益を兼ねたDTMの活用などなど、甲賀先生には感心させられてばかり。
保護者からの評判も上々で、子ども達の達成感も満足感も最高潮の中、フィナーレを迎えることができた。
保護者と子ども達がみんな帰り、体育館の後片付けをしている時のこと。
壁に取り付けている紅白幕を外そうとしたけれど、フックに手が届かない私は、パイプ椅子を片手に移動中。
「まーた届かないんだろ。藤田ちゃんは来賓席の白布を片付けておいで」
「……はい。あっちで頑張ってきます」
パイプ椅子を床に置き、来賓席へ行こうとしたその時、頭上で小さな声が聞こえた。
「藤田ちゃんのバック絵、すっげー良かったよ。幕が開いた途端、客席がどよめいただろ。ああいうのはホント、俺には描けない。お疲れ様」
優しく、誉めてくれた。
今回もいっぱい迷惑かけちゃったのに。
嬉しくて、でも、できない自分が悔しくて、ちょっと唇を噛む。
「ありがとうございます。私も甲賀先生みたいに曲の編集ができるようになりたいです」
そう答えたら、頭をぽんぽんされた。そして。
「いい顔にになったな。それでこそ俺のパートナーだ」
甲賀先生はにこっと笑って、紅白幕を外す作業に戻っていった。