ウェディング・チャイム
家へ帰って大急ぎで着替える。それなりにきちんとした服装ということで、今日はネイビーブルーのワンピース。
メイク直しもそこそこに、幹事グッズの点検をする。
出席表に座席くじ、電卓とクーポンと……うん、大丈夫。
自分のバッグの中に幹事グッズの入ったポーチを忍ばせ、甲賀先生のお迎えを待つ。
……さっきの甲賀先生、オジサン扱いされたと思って拗ねたようなそぶりを見せていたけれど、実は本当にショックを受けていたとしたらどうしよう。
ちゃんと謝ってから、ドリンク剤のお礼を言わなきゃ。
ちょっと漢方薬っぽい味のする液体を喉に流し込みながら、今日こそ泥酔せずに過ごせますようにと念じた。
タクシーがアパートの前に到着した。お待たせしないように玄関前で待機していた私に向けて、甲賀先生が小さく手を振ってくれたので、私もぺこりとお辞儀をしてから甲賀先生の隣へ乗り込む。
さっきまでジャージで大道具係をしていた甲賀先生だけれど、今はダークグレイのスーツに着替えている。
スーツだと、広い肩幅が余計に強調されるらしい。
大きな身体の甲賀先生がぎりぎり右側へ寄ってくれたのを見て、私も元々小さい体をさらに小さくして左端に座った。
「お疲れ。あれ、飲んできたか?」
「もちろんですっ! これで今夜は幹事の仕事を頑張れます!」
「会計、頼んだよ。今日は俺の方がやばい気がするから」
「え?」
具合でも悪いのだろうかと、甲賀先生の顔を見た。すると。
「ちょっと寝不足が続いててさ。若い頃は丸二日徹夜でも平気だったんだけどな。そろそろ無理が効かないお年頃だから」
そう言って、私の顔を意味ありげに覗いてきた。
これはやっぱり、さっきのことを気にしている!?
「あの、さっきは誤解させてしまうようなことを言ってすみませんでした」
「……それ、どの発言に関する謝罪?」
「どのって……」
オジサン扱いされたと勘違いさせてしまったことに対してです!
そう言おうと思った瞬間。
「運転手さん、その信号を過ぎたら左です。その先の水色のマンションで停めてください」
渋谷先生の家の前に到着してしまった。
「後でゆっくり、話そうか」
タクシーへ駆け寄ってくる渋谷先生を見ながら、甲賀先生が私の耳元で囁いた。