ウェディング・チャイム
「藤田ちゃん、あっちのテーブル、ビールが空になってきたから追加注文よろしく!」
「藤田先生、ウーロン茶のピッチャーも空になってるから頼んできてね」
「はいっ!」
宴会が始まってから、酔う暇もなく甲賀先生と八木先生にこき使われている私。
渋谷先生は『宴会部長』として余興を盛り上げ、今やっとのんびり座ってビールを飲んでいるところ。
私はずっとちょこまかと動き回っている。
「それから、さっき管理職からお志頂いたから、有難く二次会で使わせてもらうってことで、割り勘の計算も頼んだ」
「了解ですっ!」
「ええとあとは……」
考え込んでいる甲賀先生を見ていたら、一瞬下を向いて、手で口元を押さえている。
これは、欠伸をかみ殺しているような表情?
そういえば寝てないって言ってたし、そろそろ限界なのかも。
「悪いけど、二次会は俺、多分隅っこで寝てるから、最後までよろしく」
「はいっ! 頑張ります!」
甲賀先生には色々迷惑かけちゃったし、二次会の幹事程度なら私だけでも大丈夫!!
ガッツポーズを見せつつ「安心して眠っていいですよ」と答えておいた。
二次会のバーでは、カラオケを楽しむグループとダーツに挑戦するグループ、そして飲みながらおしゃべりするグループに自然と分かれ、それぞれが好きなことを楽しみつつ盛り上がっていた。
甲賀先生と同じく、激務で疲労度Maxの八木先生は一次会で帰ってしまい、渋谷先生はカラオケで盛り上げ役に徹している。
宣言通り、甲賀先生はお店の端っこでこっそり眠っている。
お金の計算をしながら、甲賀先生の隣で寝顔を見ていたら、突然甲賀先生が喋り出した。
「だから! ミクは可愛いんだってば!!」
……寝言だった。夢に出てくるほど某二次元アーティストが好きなのね。
だったらあんなに彼女が好きな事を否定しなくてもいいのに。
そう思いつつ電卓を叩いていたら、また甲賀先生の寝言が聞こえた。
「どうしたら伝わるんだ……」
……もう十分伝わっていますってば。彼女の可愛らしさは三次元の私が嫉妬しちゃう位ですよとこっそり呟きながらお金を数えていた。