ウェディング・チャイム
二次会がお開きとなり、三次会へと流れる人達と帰宅する人達がそれぞれ「お疲れ様でした!」と挨拶をする中……。
「甲賀先生! 二次会が終わりましたよ。今日は帰りましょうねっ」
まだ眠っている甲賀先生を起こしつつ、バーのマスターへ支払いを済ませる私。
「……ん? 終わった? 帰って寝る……」
「そうですよ! 帰ってから寝てくださいね! 今は起きて、タクシーに乗るまで歩いてくださいよ!」
「了解~。藤田ちゃん、連れてってくれるよな?」
「が、頑張りますけど、甲賀先生が歩いてくれないと無理ですっ」
「だ~か~ら~『先生』は使うなって」
「はいはい、わかりましたから歩いてくださいね。ほら、そこ段差がありますよ~」
私にもたれかかりながらも、何とかタクシー乗り場まで歩いてくれたので、丁度来てくれたタクシーの後部座席に並んで座ることができた。
「いらっしゃいませ。どちらまで行かれますか?」
「ええと……甲賀先生、住所ってどこですか?」
「……手宮二丁目……」
「だそうです。近くなったらまた詳しくお伝えしますね」
「はい、わかりました」
タクシーはスムーズに発進し、ライトアップされた運河沿いの道路を進んでいく。
私の地元である十勝とは、同じ北海道内と言えど街並みが全く違う。
夜の小樽は運河に映った歴史ある街並みがとても綺麗で、見る度にうっとりしてしまう。
ここに住み始めて二年目になった今でも、その景色に感動を覚えている私は、いつでも観光客気分が味わえる。
私が景色にくぎ付けになっている間に、甲賀先生がようやく覚醒しはじめたらしい。
首をくるりと回して、スーツのポケットからスマホを取り出し、着信をチェックしているように見えた。
のぞき込んではプライバシーの侵害になると思って、あえて視線を逸らしたまま運河のある方を見ていたら、甲賀先生が私の肩を軽く叩いて、スマホを差し出してきた。
「こんなメッセージが届いていたんだけれど」
「え? 私が見てもいいんですか?」
甲賀先生が差し出してきた画面には、まだ送信する前、つまり編集中のメールが見えた。
『運転手さん、うちの学校の保護者だ。会話に気を付けて』
慌てて甲賀先生の顔を見ると、真剣な表情で頷いている。
「わかりました」
「そういうことだから、よろしく頼んだよ」