ウェディング・チャイム
お母さんもさっきの様子を見ているのだから、隠さず言った方が本人のためになるはず。
「今日は参観日なので、普段よりしっかり授業を聞いていました。いつもは眠たそうにぼんやりしていたり、机の上に突っ伏して眠ってしまう事もあります。こちらでも注意はするのですが、眠さに勝てない様子ですね」
「えーっ! 普段より良くてあの程度だったの!? 何か全然話聞いてなさそうで、ぼけーっとしてるから気になって。授業中寝てるの? 信じらんない。家帰ったら説教しなきゃ。後は何か悪いことしてない?」
健太君の学校での様子……運動神経の良い子で、友達との関係も良好だけれど、よく遅刻してこっそり教室へ入って来る。
寝不足で朝、起きられないんじゃないだろうかと思っていた。
ちょっとお母さんに確認しておいたほうがいいかも。
「そうですね、登校時間はギリギリか遅刻してしまうことが多いです。……もしかしたら、夜、寝る時間が遅い、ということはありませんか?」
「うーん、十時位かなあ。携帯でゲームしてる時もあるから、もうちょっと遅い時もあるかも」
……もう少し早く寝かせて欲しいということをどう伝えたらいいか考え、なるべく婉曲に、言葉を選びながら話す。
「健太君は活発なお子さんで、運動量も多いですから、もっとよく眠りたいのかも知れませんね。もう少し睡眠時間がたっぷり取れたら、早起きできてご飯もしっかり食べられるので、自然に目が覚めると思いますけれど……」
「ご飯? ちゃんと食べさせてるよ。こっちも忙しいけどご飯のしたくだけは手抜きしないのが私のモットーだからね。まさか私のこと、朝ご飯も食べさせない親だと思ってた?」
「いえ、そういうつもりで言ったわけではないのです。ただ『早寝・早起き・朝ご飯』は三つとも学力の向上につながるとても大事な……」
「もういいよ、先生」
慌てて訂正したけれど、新山さんは怒りをあらわにした口調で私の言葉を遮った。