ウェディング・チャイム
甲賀先生の大きな身体が、私の正面にぴったりとくっついた。
さっきまで料理を作っていたためか、腕まくりした筋肉質の腕が軽く持ち上がり、私の背中に回された。
はっとして見上げた甲賀先生の表情は、とても温もりに満ちたもので……そのまま私も甲賀先生がこれからしようとすることを受け入れてしまう。
そっと、引き寄せられた。
最初はかすかに触る程度だった。
ふわふわとした気持ちとふらふらな体調の私が、思わずシャツにきゅっとしがみついた時、やっと甲賀先生の腕にも力が込められた。
小さな私が、大きな甲賀先生にすっぽりと包まれた時、大切に「守られている」ことを実感して胸がいっぱいになった。
また涙が流れたけれど、大丈夫。今、目の前にあるのは甲賀先生のシャツ。顔は見られていない。
「藤田美紅さん、君はひとりで頑張り過ぎだ。辛い時には弱音を吐くこと。頼ること」
「……はい」
「壊れる前に俺がメンテナンスする。そして、君をメンテナンスすることで、俺も壊れずに済むんだ……色んな意味で」
「あの……これってメンテナンスというか、『抱っこ法』ですよね?」
子どもの心を開き、支え、情緒的な発達を促すというものであり、障がい者や成人にも効果があるって言われている方法、だったはず。
「そう、『抱っこ法』でメンテナンスしてる。だから落ち着くだろ」
「癒されますけど、こんなこと急にされて、ドキドキです……」
「ドキドキされてるのか、俺。……よし、これからも頑張れそうだ」
そう言って、いきなりぎゅっと抱きしめられた。
思わず「ひゃあっ」と声に出したら、くすくすと笑われた。
それから、そっと離れていく。
「名残惜しいけど、そろそろお粥を食べてもらわないと。早く元気になれよ!」
頭を軽く撫でられて、そのままカウンターキッチンの向こう側へ行ってしまった。
甲賀先生の顔も心なしか赤くなっていたように見えたのは、気のせいではない、はず。