ウェディング・チャイム
次の日の放課後、職員室の机上に回覧板が置いてあり、いつものようにさらさらっと内容に目を通した。
他校の研究会の案内や、市が主催する講演会の日程、たまに学校生協の文房具大安売りのチラシなども入ってくるのだけれど、今回目に留まったのは大手携帯電話会社の広告だった。
『スマホ安全教室~出前授業を無料で行っています~
・携帯電話のトラブルとは?
・カメラ付き携帯でやっていいこと、悪いこと
・基本無料ゲームアプリの落とし穴
・SNSで炎上しないために、など』
「これだ!!」
「何だ!?」
つい大きな声が出て、隣の甲賀先生がびっくりして体ごと横を向き、私をまじまじと見ている。
その反動で、高く積み上げられた書類の山がぐらぐらしている。あ、と思った時には、二人で同時に手を伸ばしてその山を支えていた。
「危うく落盤させそうになったぞ!」
「すいません。私はこっちを押さえます」
私が上を押さえ、甲賀先生が下を支えて何とか山はその形を保ったまま。……おそらく年末の大掃除までその標高を保つことになるのだろう。
書類の山を抱えながら、甲賀先生がたずねてきた。
「で、何が『これだ!』なんだ?」
「えっと、携帯電話会社が無料で行っている『スマホ安全教室』です」
「あー、回覧で見たな。あれ、申し込んでみるか?」
「はい! 六年生全員の総合学習の時間で取り組みたいんです! 私が窓口になりますから、甲賀先生は研究授業に集中してくださいね」
「了解。で、どうしてそれに申し込みたいんだ?」
「……さくっと言えば恋愛と友情とライバル心がこんがらがってスマホのSNSで悪口言ってる女子がいるんです」
「それはかなりじめっとしてるな。なるほど、専門家である外部講師から注意を促してもらう方が素直に聞くかも知れない。じゃあ、そこは任せたから、何かあったらすぐ知らせて欲しい」
「はいっ!」
甲賀先生、忙しいからっていうこともあるだろうけれど、ちゃんと私を信頼して任せてくれたんだよね?
外部講師を呼ぶ場合、まずは教務主任に相談して、OKが出たら管理職へ話を通して決裁書類を出すんだけれど、紗英ちゃんの件を相談しながら提案すれば、どちらもスムーズに進むはず。
甲賀先生に頼るだけじゃなく、私にできることはまず何か、考えて前進あるのみだと思った。
頼るばかりではなく、いつか頼ってもらえるようなパートナーになりたいから。