ウェディング・チャイム
それから一週間後。
甲賀先生の研究授業が行われる日となり、学校全体がちょっとそわそわ。
甲賀先生の授業だけれど、指導案検討は学校全体で行ったものであるから、うまくいかなかった場合はある意味連帯責任なのだ。
いよいよ二時間目、甲賀先生の公開授業が始まった。
私は隣にいる自分のクラスの子ども達がおとなしく自習しているのかということも気にしつつ、カメラで記録をとりながら授業を見守った。
今回の授業は、算数の『速さ』の単元。速度や距離の求め方を考えるという、六年生にとってはなかなか難しい単元だったりする。
この単元は、まず文章をよく読まなくては意味が理解できない上に、比例の考え方も定着していないと訳がわからなくなってしまう。
甲賀先生はTVにパソコンを接続して、自作のPowerPointで問題文に書かれていることをそのままイラストと数直線に表して子ども達に見せていた。
……これだと、読解力に難ありの子ども達でも、問題の内容が理解しやすいし、速度の違いが一目でわかる。
教科書だけではつかみにくいことも、興味を持って画像に注目できるように工夫している。
ところどころで子どもの気になる呟きをひろって発表させ、笑いを誘い、いいところは大きな声で褒めまくり。
説明を聞く、ノートに書く、TVに注目する、みんなで話し合う、問題を解くといった活動を進め、最後の自己評価までスムーズに流れた授業だった。
以前、甲賀先生が言っていたのを思い出す。
『授業って、準備がちゃんとできていれば八割の確率でうまくいく。残りの二割は子どもと自分のその時のコンディション次第だ』
研究授業は決して良いコンディションとは言えない。ガチガチに緊張する中でもこれだけ面白く、わかりやすい授業ができるということは、甲賀先生の日頃の学級経営がうまくいっているということ。
そして、準備にものすごく時間をかけているということ。あのPowerPointだって、おそらくかなり時間をかけて作っているのだと思う。
あとで、PowerPointのデータをもらって研究したいなとこっそり思った。