ウェディング・チャイム
子ども達が帰った後、指導主事からもたくさんお褒めの言葉をいただくという、珍しい事後研究が終わり、甲賀先生の研究授業は大成功に終わった。
ほっとした顔で隣に座っている甲賀先生に「お疲れ様でした」と伝えながら、引き出しの中に備蓄しているチョコレートを渡したら
「マジで疲れた。明日休んでもいい?」
と、冗談か本気かわからない返事が返ってきた。
「ダメです。スマホの出前授業もありますから、明日は絶対休まないでくださいよ」
「……そうだった。じゃあ、明日は藤田ちゃんのために頑張るよ」
「いやいや、私のためじゃなくて子ども達のために頑張るんですよ」
「とりあえず明日も藤田ちゃんと子ども達のために頑張るから……今日は帰って寝る! 全力で寝る! 遅刻するかも知れないくらい、思いっきり寝る!」
そのセリフ、以前も聞いた気がする。甲賀先生は寝る時も全力で、がモットーなのだろうか。
「わかりました。起こせばいいんですね。電話しますから遅刻も勘弁してください」
「じゃあ、頼りにしているからよろしく。できるだけ爽やかに起こしてくれると、明日も一日頑張れそうな気がする」
「それじゃあ、私が全力で怒鳴る前に目を覚ましてくださいね」
「……それでも起きなかったらどうする?」
意味ありげに見られたけれど、まさか直接たたき起こす訳にもいかないだろうし。
「諦めて管理職に『甲賀先生は疲れがたまって体調不良のようです。病休扱いにしてください』って報告します」
「ははは。今はやめといて欲しいな」
ん? なぜ、今はダメなの?
指導主事訪問でくたびれた今だからこそ、その言い訳も通用するはずなのに。
「どうして、今はダメなんですか?」
「こっちの都合、と言っておこうかな。そんな報告をされる位なら、今のうちから年休の手続き取って堂々と休むよ」
本気なのかウソなのか、微妙な笑みを浮かべながら、甲賀先生は帰り支度を始めてしまった。
明日の朝、電話で聞いてみたら教えてくれるだろうか。