ウェディング・チャイム

~色んな意味で炎上中~


 翌朝。甲賀先生を起こさなきゃならない、という使命感からか、まだ薄暗い五時に目覚めてしまった。

 朝活もいいかも、なんて思って、学級通信の文言をささっと打ち込んでみた。

 これに今日のスマホ安全教室の記事を入れたらもう、印刷に回せる!


 一仕事終えたところでちょうど六時半。

 頼まれた時間になったので、甲賀先生へ電話をかける。


 五回コールで出てくれた。

「おはようございます! 朝ですよ~! 起きてますか?」

『おはよ。藤田ちゃん、朝からえらいハイテンションだな』

「これでも精一杯爽やかに起こしたつもりなんですけど。とりあえず、欠勤は避けられましたね」

『そうだな、うん。これで管理職に報告されずに済んだ』


 あ、私が聞きたかったこと、甲賀先生の方から話を振ってくれている。


「あの、今は『体調不良で病休』っていう報告、しちゃダメだっていうのは、どうしてですか?」

 少しの間、沈黙が流れた。それから。

『理由その一、体調管理も仕事のひとつ。徹夜続きの公開授業の後だって普通に仕事するのが当たり前』

「そうですけど、無理はいけないと思いますよ」

『実際、無理ではなかったし、別に熱が出たとか腹が痛いわけじゃないんだから休めないよ。
 それと、理由その二、人事異動前にできるだけ評価が下がるようなことは避けたいから』

 人事異動……そうだった。甲賀先生はおそらく異動の対象。

 私にこの話をしてくれるのはこれで二回目。多分来年度は確実にどこかへ行ってしまうのだろう。

「わかる気がします。スムーズに異動するため、なんですね……」

『まあね。一応そういうことになるかな。
 そして理由その三、これが一番大きいんだけどな~。俺の朝一の健康状態を藤田ちゃんが報告するってことは、管理職に誤解を与えるだろう。わかるか?』

 誤解?
 もしかしたら、一緒に住んでるとか!?

「……そういうこと、ですか! いやいやいやいや、そこは全力で否定しましょうよ! だって電話で話すだけでも健康状態なんてわかるじゃないですか」

『藤田ちゃん、親切なのはありがたいけれど、ちょっとその辺は迂闊すぎるぞ。この仕事、信頼がすべてだからな』

「そ、そうですか……以後気をつけます」

『じゃあ、そういうことで。あ、モーニングコール、嬉しかったよ。あとでお礼させてもらうから』


 通話を終えて、自分の言動をちょっと後悔した。前にも失敗したのに、学習能力低いな、私。

 これから気をつけようと思いつつ、身支度をして気合を入れた。
< 148 / 189 >

この作品をシェア

pagetop