ウェディング・チャイム
「うちの子、よく食べるから給食だっておかわりしてただろうけどさ、それで朝ご飯抜きだと思われたとしたら何かちょっとねぇ」
どうしよう、新山さん、完全に怒っている。
まさか早寝早起きと朝ご飯をセットで話しただけで、こんな風に受け取られるとは思ってもみなかった。
私の余計なひと言のせいだ。
「あの……朝ご飯はしっかり食べている、という事はよくわかりました。誤解を与えてしまうような話をして、すみませんでした」
「全然解ってないと思うけどね。こっちは夜、ずっと仕事して、朝方帰って来たら寝ないで毎朝子どもの朝ご飯作ってるんだよ。結婚もしてない、子どものいない先生に、この大変さと親の気持ちなんて解る訳ないでしょう!」
悲しいけれど、親になっていない私はその気持ちを想像することしかできないので、ご指摘を事実として受け止めるしかない。
「すみません……」
睨み付けられ、どう対処しようか途方に暮れていたら、突然六年一組のドアが開いて、甲賀先生が出てきた。
まだ、教室に残っていたんだ……。
「お話し中、失礼します。学年主任の甲賀です。お話はだいたい伺いました。藤田が余計なことを言ってしまったようで、ご気分を害されたのですね。どうもすみませんでした。今回の発言は、お子さんを思う熱意から出た言葉だと思って好意的に受け止めて頂けませんか?」
「あ、甲賀先生……いや、私だって別にそんなに怒ってた訳じゃないですし……」
私の背後のドアから現れた甲賀先生に気づいた途端、新山さんの表情が変わった。