ウェディング・チャイム

 今日のメニューはロールパン、牛乳、チキンの照り焼き、野菜のコンソメスープにベビーチーズ。

 欠席者がいないから、おかわりジャンケンの審判の必要はない、と。

 これなら何とか家庭学習ノートのチェックはできるかな。


 ノートや連絡帳を安心して開ける唯一の時間が、実は給食中なのだ。

 誰よりも早く給食を食べ終え、手早くノートチェックをして、おかわりジャンケンで采配を振るうのも担任の大事な仕事。何しろ食べ物の恨みは恐ろしいから。


 高学年にもなると、子ども達も手早く配膳ができ、食べ終わる時間も早くなる。

 ノートチェックが終わって子ども達の様子を見ると、舞花ちゃんは後片付けの当番だったらしく、水の入ったバケツを持ってきていた。

 里香ちゃんは、食べ終わって本を読んでいた。


「里香ちゃん、ちょっと話してもいい?」

 すかさず声をかけ、時間がないので廊下で話す。


「何があったのか教えてくれる?」


 実はさっき、舞花ちゃんの話を先に聞いたのも作戦のひとつ。

 激怒していた里香ちゃんは、クールダウンの必要があった。

 
「舞花が里香と沙絵に『何コソコソ悪口言ってるの?』みたいなことを言ってきたから、悪口言ってるのはそっちでしょうって言い返したの。なのに、しらばっくれるんだもん」

「なるほど。今までどんな悪口を言われてたの?」

「里香に対しては『偉そうに』とか。あと『調子こいてる』なんていうのもあったよ。紗絵には『のろま』とか『使えない』とか『稜君に馴れ馴れしい』ってさ。やきもち妬いてるんだよ」


 出た、甲賀先生も苦手だっていう、高学年女子にありがちなドロドロの愛憎劇。

「そっか。それ、直接言われたんじゃないよね? 『あったよ』っていうことは、何かに書かれてた?」

「うん。最初はDSの通信でやりとりしてたっぽい。今はラインでやりとりしてるの。舞花と奈々のラインには、前に紗絵も入ってて、それで見れちゃったっていう。紗絵がこっちのグループに来てからは、他の子にラインで悪口広めてたんだけど、その画面見せてもらっちゃったの。ツメが甘いよね」

「そうだったんだ……それであのセリフだったんだね。悲しかったね」

「……もう、学校来たくなかったよ。でも、休んだら負けだから。里香は悪くないもん」

 里香ちゃんが泣き出しそうだったので、あえてここで話を打ち切る。


「掃除の時間が終わったら、里香ちゃんと舞花ちゃんと私と三人で話そう」

「……はい」


 教室へ戻って、ごちそうさまをして、掃除が始まる。スピーカーから掃除開始の軽やかな音楽が流れはじめた。

 里香ちゃんと舞花ちゃん、うまく仲直りさせられるだろうか……。

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