ウェディング・チャイム
 掃除が終わり、里香ちゃんと舞花ちゃんを連れて視聴覚室へ来た。

 ピリピリしたムードの二人を見ていたら、何だか私まで緊張してくる。

 ちなみに、この二人を気にして、紗絵ちゃんと奈々ちゃんがこっそり後をつけてきていることにも気づいていたけれど、知らないふりをしておく。


 教室掃除をしつつ、どう話を進めたらいいのか考えたら、結局素直に私の気持ちを伝えるのが一番いいかな、という結論に達した。

 頭ごなしにしかりつけた場合、舞花ちゃんは反発して、私にバレないように裏で里香ちゃんと紗絵ちゃんに辛く当たるだろう。

 だったら、これから始まる『スマホ安全教室』の話をじっくり聞いて、心の中で自分の失敗を見つめ直してもらった方が、後々彼女のためになる。

 
「最初に言っておきたいんだけれど、私は二人とも可愛いの。だから、舞花ちゃんがこれから先、SNSで炎上しちゃって取り返しのつかないことになるんじゃないだろうか、とか、里香ちゃんが朝、泣きながら登校して来るんじゃないだろうか、なんて想像するだけで泣けてくるよ」

 
 こう切り出すと、既に里香ちゃんは涙目になっている。

 舞花ちゃんはまだふくれっ面だけど、さっきのような闘争心むき出しの眼ではなくなっていた。

 SNSの件を先に出したというのは、私に陰口がバレているということだよっていうアピール。

 彼女達は、私が森川稜君のお母さんから情報提供を受けていることを知らない。

 さっき舞花ちゃんと話をしたのは、里香ちゃんからの話を聞く前。

 つまり、里香ちゃん以外のルートで陰口の情報を入手していることを匂わせたつもり。

 私はまた、二人の顔をしっかり見て、話を続ける。


「悪口を言ってしまった人に対して、私は今までこう言ってきたの。『鉛筆で書いた文字は消しゴムで消せる。でも、とげのある言葉って、心に刺さってずっと残ったまま消せないんだよ』って。でも、今はさらにこう付け加えるよ。『ネットにUPした文字はデリートやバックスペースで消せないものもあるんだよ。世界中に広まって炎上したら人生変わっちゃうよ』ってね」

 二人とも、うなずいて話を聞いている。

「お互いに、何か誤解されるような言動があったのかも知れない。直接尋ねるのは勇気が必要なことだけれど、文字だけのコミュニケーションよりきっと通じるよ」


 ここまで語ったところで、校内放送が入った。

『お呼び出しします』

 甲賀先生の声だ。

『藤田先生、藤田先生、お客様がいらっしゃいました。至急、職員室までお戻りください』

 はっと思って時計を見たら、もう『スマホ安全教室』の講師の先生が来校する時間!

 
「先生、行ってらっしゃい。大丈夫、うちらで話せるから。ね、里香?」

 舞花ちゃんにそう促され、里香ちゃんも首を縦に振ったので、私は職員室へ向かった。

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